風の静寂

カン カン カン カン

蝉の声を蹴散らして、遮断機の警鐘が鳴り響く

自転車から跳び降りた僕はそのまま5、6歩歩き、バーの手前で立ち止まる

もうすぐ、電車が来る

僕は間近で電車を見るのが好きだ
線路の傍で、風を感じるのが好きだ

通り過ぎる瞬間に、風の静寂・音の停止が起こる

それを感じるのが好きだ

もうすぐ、もうすぐ電車が来る

僕の横を、影が走っていった

そいつはバーを軽々と乗り越え、電車へと飛び出した

全ての音が停止する

風が掻き消した

警鐘が止み、蝉の声が戻ってくる
通行人が踏み切りを渡り出す
エンジンの音をたてて車が進み出す

飛び込んだ人物はいなかった
あれは、僕の妄想、妄想の『僕』

あの風の空間に浸っていたいんだ

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